スペシャルインタビュー OrangeLife VOL.5

インタビュー5

大変なことだが、私にとっては新しい挑戦

vol5_04――愛媛FCの監督に就任しての率直な感想は?

「まず、ヨーロッパと日本のサッカーではいろんな部分で違っている点があります。ただ、クラブに協力する人たちがいて、それらと地域が団結してクラブを押し上げていくというのは同じだと思います。愛媛もその例外ではなく、実際に見て感じる限り、クラブ関係者、地域、サポーターが一体となってクラブを強くしていこうという所が感じられてとても好印象を持っています。もちろんまだ若いクラブで伸びしろもたくさんあると思うので、自分としてはそこをできるだけ伸ばしていきたいと思っています」

――今回、初めて日本で指揮を執るということは大きなチャレンジだと思うのですが、その決断をした理由は?

「まず主に2つあります。チーム側からコンタクトがあった時、その時はまだ候補の一人でしかなかったと思いますが、話を聞いた限りではクラブ自体が真剣にチームを強くしようという熱心な気持ちに心を動かされました。また、2部(J2)ではありますが、まだ歴史の浅い若いチームをここから伸ばしていくという事に魅力を感じました。おそらくそれは大変な事だと思いますが、それは私にとっては新しい挑戦であり、その挑戦への達成感とクラブの発展を目的にやっていきたいと思いました」


――監督は選手時代には主にスペインリーグで活躍し、指導者としてもボスニア1部リーグでチームを優勝に導くなど素晴らしい実績を持っていますが、それらで培った経験はこのチームにも活かせると思いますか?

「もちろん今までの自分の経験と培ってきた知識は最大限活用すべきであると考えています。そして、それをもってクラブを押し上げたいし、クラブに足りない部分を補っていきたいです。選手たちの気持ちを動かし、闘争心、攻撃性を持ってもらい、あとは自分の経験、知識を加えて押し上げていきたい」

――実際にチームを見ての印象は?

「第一印象は技術に優れた選手が多いということ。ただ、技術に優れた選手がいるだけでは試合には勝てない。例えば世界的な選手を揃えているバルセロナやレアルマドリーなどのビッグクラブでさえ思うように勝てない時があるのがいい例です。ならば何が大切かというと、持っている技術をそれぞれが好き勝手に使うのではなく、ピッチ上で大事なのは選手それぞれがチームの中のひとつの機能であることを認識するということ。試合中に各自がチームの機能として状況判断をした上で、自分の能力をいかに有効活用するかが勝利に到達する要因だと考えています」

vol5_01――今後、どのようなチームにしていきたいと思いますか?

「技術的にも、肉体的にも、精神的にも準備のできた選手がチームの機能の一部となって全員で戦うことが重要です。あとは攻撃も守備も全員がやること。現代のサッカーは攻撃の選手は攻撃だけ、守備の選手は守備だけをするというわけにはいかない。また、基本的なフォーメーションや戦術はあるにしても、それらは臨機応変にフォーメーションがトランスフォーム(変化)し、それぞれの選手が責任感をもって試合に取り組まなければならない。攻撃の時は前に人数をかけて厚い攻撃をしかけ、守備の時は守備の選手だけでなく中盤の選手も戻ってしっかり守る、いわゆる全員サッカーを目指しています」

――では選手に最も求めたいことは?

「ひと言で言えば“戦略的な規律”ですね。練習中やロッカールームで監督はいくらでも指示を出すことはできますが、実際にゲームでは選手それぞれが状況判断しなければなりません。だからチームとしての戦略的概念を全員が把握しておく必要があるのです。あと、当然ですが戦う気持ちも必要です」


――このチームを率いる上での目標は?

「最終的な目標に達するためには、最高のトレーニング、最高の試合をするということが必要になります。常に次の試合に向けて集中してトレーニングをし、毎試合勝つことを目指さなくてはいけません。現段階では来てあまり間がないので選手それぞれの特性を見極めているところですが、チームの中で11人が決まっているわけではなく、全員がほぼ同じスタートラインに立っているのです。白紙の状態から各選手が、どういう選手か、どういう性格かを見ていきたいと思います。また、そこから選手にはいかにして11人に入るかの競争をどんどん活性化していってもらいたい。J2を見ている限り、上位の4、5チームは力の差があるかもしれませんが、それ以外のチームはほぼ同じレベルのチームのように思えます。なので、少しでも組織や選手の気持ちがしっかりするなど、少し強化するだけで他のチームに差をつけることができるのではないかと思います。そしてそれを続けて強化してやっていけば、その上の4、5チームにも届くと思います。そして、ここで最終的な目標の話になるのですが、上のリーグ、すなわちJ1に昇格できるものだと考えます。目標というのは持つに越したことはないですし、目標を持つことで選手はモチベーションが上がり、同時に良い意味でのプレッシャーも与えます。だから目標は高く持つべきだと考えます」


良いことが起こっても、悪いことが起こっても、それが本当に良いか悪いかはわからない

vol5_05――監督は現役時代はどういう選手だったのでしょうか?

「旧ユーゴスラビアではセンターバック、スペインに渡ってからはディフェンダーの他にも守備的ミッドフィルダーも経験しました。そして私はおそらく個人としての選手ではなく、“チームのための選手”だったと思います。チームの一員として自分に与えられた役割を果たしていく、そういう選手でした。もしかしたら私が選手時代にチームの一員としてチームのために頑張るという経験をしてきたからこそ、それらを選手に求めているのかもしれませんね」


――今のチームの中に監督に似たタイプの選手はいますか?

「まだそこまで気を使って見ることができていないのでわからないから、誰がというのは言えないが、ディフェンシブな選手でチームの機能の一部としてプレーができて、非常に責任感の強い選手がいるとすれば、それが私に近いタイプの選手ではないでしょうか」

vol5_06――尊敬している選手、または指導者はいますか?

「旧ユーゴ時代もスペイン時代もとてもクオリティの高い選手はたくさんいました。もちろん一緒に代表チームでプレーした仲間たちもベストな選手ばかりでした。ただ、個人名を挙げるのはあまり好きではないのですが、どうしても言わないといけないのであれば、選手としても、指導者としてもヨハン・クライフを挙げます。当時、クライフが指揮していたバルセロナと対戦したこともありますが、選手との関係であったり、仕事への取り組み方、メディアへの関わりなど、そのスタイルが共感できるというか尊敬できました。また、本来サッカーというものはシンプルにやるのが一番なのですが、現代サッカーはどんどん複雑になっています。しかし彼はそれをシンプルにすることに長けていたと思います」

――愛媛に住んでみて街の印象はいかがですか?

「海外でも日本は伝統や文化を大切にしている国だということは聞いていたが、実際に愛媛に住んでみて素晴らしいところだと感じました」

――では日本食はいかがですか?

「日本食も気に入っていますよ。最近ではパンを食べることも少なくなってきました。初めて食べた日本食が焼き鳥屋だったんですけど、注文すると小皿で少しずつ料理が出てきてそれをみんなで食べるというスタイルがスペインのタパスに似ていて興味深かった。特に印象に残っているのはじゃこ天で、とても気に入っているよ」

vol5_03――好きな言葉、もしくは格言というものはありますか?

「クロアチアに“良いことが起こっても、悪いことが起こっても、それが本当に良いか悪いかはわからない”という格言があります。私がボスニア代表のコーチをしていた時、対戦相手がいなくて仕方なくクロアチアのクラブチームと対戦することになったのですが、選手たちは相手を格下と見くびり、モチベーションが上がらず2-3で試合に負けてしまいました。代表チームがクラブチームに負けてしまったことで選手はもちろん、監督、コーチ陣もひどく批判されたんです。その時に先ほどの格言を言いました。“この負けが悪いことなのか良いことなのかわからないよ”と。そしてメディアに大きなプレッシャーをかけられ、次の試合でベルギーに勝ったんです。つまり、チームは与えられたプレッシャーをバネにすることができたのです。逆にあの時に勝っていれば次の試合も同じテンポで行って負けていたかもしれない。だからクラブチームに負けたことが悪かったのか良かったのかはわからないということになるんです。悪いことが身にふりかかってきても、それが本当に悪いことかはその時にはわからない。もちろんその逆も同じことが言えます」

――監督はご自身でどのような性格だと思いますか?

「自分を常に見返しています。そして常に自分に対して批判的です。なぜかというと常に正しいことをしていたいと思っているからです。また、正しいもの、適正なものを重んじる性格だとも思います。例えば、選手たちとはグラウンドの外では良い友達でいたいと思いますが、監督と選手との関係、コーチと選手との関係は仕事の上では適正な関係を持っていたいと思います」

――これまで過ごしてきたチームではどのように呼ばれていたのですか?

「特定のニックネームは無かったですが、ただ、名前の最初を取ってバルバと呼ばれることはありました。でも基本的にはバルバリッチと呼ばれていましたね」

――バルバリッチ監督が愛媛FCの監督に就任して、多くのサポーターが注目をし、同時に期待をしていると思いますが?

「チームの成功には当然、運営側、チーム側、スーツ組、ジャージ組それぞれの協力というのが必要ですが、それ以外のもう一つ不可欠な要因がサポーターの存在です。サッカーは彼らのためにやっていますし、彼らに満足してもらうことがとても重要なのです。チームが勝利することはもちろん選手たちは嬉しいのですが、勝利することで歓喜するサポーターを見ることが何よりの喜びに変わるのです。サポーターに満足してもらえるような試合ができるよう毎日練習してクオリティを上げているのです。その結果、試合で満足してもらえれば、また次の試合も来てくださると思っていますし、そこでハードワークをして一生懸命な姿が見せられれば、新たなお客さんが新たにスタジアムに足を運んでくれると思うので、そうやってサポーターの数も多くなっていけばいいですね」

――では、J1昇格目指して頑張ってください。

「ありがとうございます。来てくれるサポーターのためにメンタルもフィジカルも全力で試合に臨みたいと思います」

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