スペシャルインタビュー OrangeLife VOL.3

h1望月
J昇格の歓喜に沸いた2005年。J2で旋風を起こした2006年。天皇杯で暴れまわった2007年。そして、屈辱にまみれた2008年。さて、勝負の5年目を迎える望月監督の今季構想は?その決意のほどを語ってもらおう。

「自分たちのサッカーを度外視してしまった」昨シーズン
――まずは残念な結果に終わった昨シーズンを振り返ってください。「シーズン前に予想を立てていた部分では、2007年はリーグ戦では終盤6連敗していた一方、天皇杯ではチームとしてのまとまりもよかく結果も出ていたので、その勢いから勝負できると思っていました。ただ、期限付き移籍で抜けたCBの近藤(徹志)、SBの森脇(良太)、FWのジョジマールなどの穴埋めをすれば、最初はかみ合わなくてもシーズン途中からは機能すると思っていたのですが、蓋を開けてみると期限付き移籍で獲得した選手が機能するのに時間がかかったことと、金守(智哉)や宮原(裕司)がけがで離脱したことで、チームとしてのスタートがなかなかできず、時間がかかってしまったシーズンだと思います。やっと機能し始めたのがいつも通りリーグの終わりごろになってしまったことがもったいないと感じています」
――ただ、鹿児島キャンプ中盤まではJ1の柏を破るなど、攻撃の統一感もあったように感じますが・・・。「その時点では金守もけがをしていなかったですし、けが人も多くはなかったので一昨年からチームの狙いとしている戦い方は理解してもらっていたと思います。ただ、あの時点では対戦相手も仕上がりが遅く、逆にウチは仕上がりが早い状態で戦っていたので『ウチはできるんじゃないかな?』と錯覚を起こしていた部分はありましたね。それは選手もスタッフも。その後に対戦した磐田や清水との練習試合を見ると機能しないところを感じましたし、キャンプ全体を通しては『時間がかかるな』と思う中でけが人も多く出てしまいましたね。だから、キャンプでチーム作りをしたのに、けが人が出てまたチーム作りをし直すことになってしまいましたね」
――それでももう一度チームを積み上げて、開幕の熊本戦は勝利。ただし、その後通算2勝1敗で迎えた第4節の草津戦(1-2で逆転負け、以後1分5敗で最下位転落)が大きなポイントになったと思いますが?
「あの試合は前半からダメでした。第3節の徳島戦もそうだったのですが、天候が悪い中で悪いなりのサッカーはできていたのですが、あまりにもボールを蹴るサッカーをやりすぎたことで、ウチの持ち味であるつなぎながら早い仕掛けをする攻撃から離れていってしまったような気がします。守備も中途半端になってしまい、前からいけなかったこともありました」
――監督の中でも「勝負する」部分と「自分たちの持ち味を出す」部分での葛藤があったと思います。「シーズン最初のころはそうでした。勝つために自分たちのスタイルよりも相手の弱いところを突くことや、天候に合わせたサッカーをするのを優先させていました。もちろんそれは大事なことですが、自分たちのサッカーを度外視したサッカーになってしまっていましたね。自分たちのスタイルをやりながら勝つという今までの形と180度違う形だったと思います。だから、選手が色々なものに引っ張られて動けなかったようなことがあったんだと思います。そこから修正していこうとはしたのですが、今まで染み付いたものもあって脱線からなかなか修復できないことは感じていました」
――その中で「自分たちのスタイルでやらなくてはいけない」と監督が最終決断するに至ったゲームはどの試合になりますか?「第1クールが終わった時点では『そうしなくてはいけない』とは思っていました。第1クールでは我慢して、けが人が戻ってきたところでもう1回やれると思っていても、そのようなサッカーがなかなかできなかったので、『これはもう1回修正するしかない』と。そして第3クールで徳島に0-5(第38節)負けた時点で、切り替えを早くすること、『もっと自分たちのスタイルを出すために、闘える選手をグラウンドに出そう』という思いは一層強くなりました。『闘える選手』と『自分たちのサッカーを徹底してやれる選手』。つまり『チームのために1つにまとまれる選手』を作ろうとしてそこからはやっていきました」

望月監督1「ひとつにまとまって闘う」ために
――その昨シーズンがあって、今シーズンのスローガン「E-Spirit」につながるわけですね?「そうやって取り組んできた昨シーズン終盤も、時間帯によってはなかなかまとまれない時間帯もあったので、それを今シーズンはよりまとまれるようにするために考えました。『E-Spirit』という言葉はなかなか出てこなかったですが、『ひとつにまとまって戦う』という考えはずっと思っていたことです。昨シーズンのスローガン『STRONG WILL』もそうですが、僕はシーズン終盤に思ったことを次の年のスローガンにしています」
――そのスローガンに伴って選手獲得などの面も進めてきたとは思いますが、今シーズンの選手獲得コンセプトについては?「J2での3年間は毎年チームを入れ替えるようなイメージでしたが、選手を鍛える中での入れ替えはともかく、中心となってやっていく選手が抜けられるとチームを強くする上でも痛いので、これからは中心となる選手がそのまま残っていくように、『期限付き移籍選手を少なくする方向でやっていこう』というのが第一です。
 それと、24・25歳の選手たちが活躍できる環境を作るために、『トレーニングだけでなく試合経験を積めるようにしよう』ということがもう1つ。昨シーズン(31名でスタート)のようにあまりにも選手の数が多いことで、試合に出られない状況が生じると選手にももったいないですし、となると選手の人数も少なくなってきますね」
――その意味においては四国リーグでアマチュアチーム「愛媛FCしまなみ」がトップチームの下部組織として今シーズン、活動開始するのは大きいのでは?
「人数を少なくできるのもそれが一番大きいと思います。『しまなみ』があることによって、伸びてきた選手をトップに引き上げることもできますし、ウチが足りない部分を補うこともできると思います」
――では、ポジション別に監督の期待するところを。まずはGKには川北裕介選手、C大阪から今季加入した山本浩正選手に、今季当初は「愛媛FCしまなみ」での登録になる兼田亜季重選手の3名がいます。「川北はけがが多くて1シーズン戦えることが少ないので、そこをタフにやってくれれば。こっちが何も言わなくてもリーダーシップを取ってやってくれる選手なので、彼に関しては思い切って自分の持ち味を出してくれればいいと思います。練習をハードすぎるくらいやることも彼はあれを取ってしまうと彼のいいところが出てこないので。山本には以前から興味を持っていました。昨年のリーグ最終戦でC大阪のゴールマウスを守っていた選手で、スーパープレーをするわけではありませんが、安定感のあるGKです。GKは30歳を超えても伸びるポジションなので、チームのためにもっと守備範囲を広くしてプレーしてもらいたいですね。兼田は昨年試合に出る機会がほとんどなかったので、自分自身が成長の度合いを知るためにも『しまなみ』でゲームに出て経験を積んでもらいたいですね」
――次はDFです。CBには金守選手に加えてJ1大分やJ2水戸、鳥栖で経験と実績を持つ柴小屋雄一選手が大分からの期限付き移籍で、昨年の関西学生リーグ最優秀選手の吉川健太選手が阪南大から加入しました。「高さはウチのウィークポイントだったし、昨シーズンも真ん中を割られる場面が多かったので、中央で体を張って守れる選手として柴小屋には期待しています。フィードも下手ではないですし、CBにしっかりした選手をおく意味においてもやってくれると思います。彼もウチが以前から欲しいと思っていた選手ですね。
 金守はDFラインを統率する面はよくなっていますし、ビルドアップの部分でも攻撃の起点にはなってくれているので、あとは安定したゴール前での守備を求めたいです。危ない場面でボールサイドに寄りすぎるなど勝負が早いところもあるので、そこは慎重にやってもらいたいですね。
 吉川は金守と同じで予測しながらサッカーができる選手。DFラインでボールの状況を見ながらライン統率や球出しができます。ただ、そのようなタイプの選手はプロのスピードに慣れるのに時間がかかるので、そこは計算できるように育てたいですね」
――SBについてはどうでしょうか?右は高杉亮太選手と関根永悟選手、左は今季キャプテンを務める三上卓哉選手と松下幸平選手の争いになると予想されていますが・・・。「右はその2人で競争させようと思っています。高杉は高さがあって球出しがうまいし、運動量や上下動でもできます。関根は運動量、上下動に加えてスピードとアグレッシブさを出せる選手。ただし、2人とも守備については課題を抱えているので、違った持ち味を出しあいながら課題も克服してもらいたいです。
 三上は安定感もあるし、つなぎも悪くないし、オーバーラップのタイミングやクロスの質も高い。あとは左MFとの関係の中で攻撃の回数を増やしてもらえばと思っています。松下も三上同様に安定したプレーはできますが、1つ特長を出す部分を備えてもらいたいとは思っています」
――ちなみに、三上選手をキャプテンに指名した理由は?
「年齢的(28歳)にもチームを引っ張る立場ですし、実際、昨シーズンも試合が終わった後に、彼がチームメイトへアドバイスを送っている姿は僕も見ていましたから、昨年の末にキャプテンの打診をしました。これからはチームの中心選手としてだけでなく、彼が持っている安定感を活かし、彼のサッカー観や主張をよりチームを引っ張り、機能させる方向に使ってもらってもらいたいと考えています」
――MFに目を移しましょう。昨年は苦労したボランチの位置ですが・・・。
「確かに昨年は苦労しましたね。井上秀人のコンディションが上がらないなど守備のできるボランチがいなかったので。でも今年は田森(大己)が甲府から来たことで、その穴は埋まるのではないかと思っています。昨年の第3クールで対戦したときもパフォーマンスは悪くなかったですし、基本のチーム布陣はダブルボランチで考えてはいますが、もし彼が攻撃で展開できてワンボランチをこなせるようであれば、ワンボランチでもいいかなとは思っています。まず彼には守備でのハードワークを期待したいですね」
――昨年は最終的に赤井秀一選手、青野大介選手でボランチは固まりました。
「赤井はボールを受けてなんとかする選手なので、サイドよりボランチの方が合っているのかもしれません。運動量やキックも悪くないのでボールを受けながらテンポを上げる部分では2人のボランチはいいですね。また、(青野)大介は運動量の課題はありますが、広い展開ができることが彼の特長。ですから田森、赤井、大介、それにプロのスピードには慣れないといけませんが、チーム1のスタミナとキックがあるのでサイドもできる大分ユースから入った越智(亮介)。この4人がボランチ候補になります」
――サイドはどうでしょう?このポジションは右の横谷繁選手がG大阪からの期限付き移籍期間を延長。左には江後賢一選手がいる中、2007年に浦和からの期限付き移籍で所属していた大山俊輔選手が湘南から完全移籍してきました。「(横谷)繁は昨年、試合に出始めた当初はアグレッシブさがあってギラギラしていましたが、試合に出続けるにつれてそれが失われてきたような感じでした。今シーズンは試合に出ることだけに満足せず、いかにチームのためにプレーしながらアグレッシブに出せるかがポイントですね。
 江後は逆にチーム事情で長い時間プレーしていくことで、スピードを活かし、ゲーム中の運動量も増えてきました。それでも試合で消えている時間帯が多いので、試合に絡む時間帯を増やしてほしいですね。
 大山はつなぎの部分でチームをコントロールできる選手ですし、キックやクロスもいいので一昨年のプレーを思い出し、繁と競争してやってもらいたいですね。それと今年は(千島)徹のコンディションがいい。攻守の切り替えや継続が彼の課題なので、そこは今季しまなみ所属でスタートする持留(新作)と共に修正してもらいたいです」
――最後はFWです。昨シーズンはリーグ最下位のゴール数に終わってしまいましたが・・・。
「FWは昨シーズン(7名)よりは人数も少ないので試合に出るチャンスはあると思いますが、その中でも大木(勉)が中心になってもらいたいとは考えています。彼の運動量は少ないですが、ゲームにかかわるタイミング面でベテランの味を出していますし、攻撃も守備においても起点となる動きをしてくれています。今季はゴール前の動きをそこに加えてほしいとは思っています。
 内村(圭宏)は運動量が多く、プレスの面でもタイミングよくかけられるようになってきました。彼も継続面の課題がまだありますけど。(田中)俊也はその点が昨シーズン全くできていませんでした。昨シーズンも7点でチーム得点王ですし、ゴール前での嗅覚は持っているので、DFの背後を狙うだけでなく味方に存在を見せて、ボールを引き出す作業ができればもっと点は取れるはずです。ウチは守備もして得点も取れないとゲームでは使えませんから。
 今年甲府から完全移籍したジョジマールも課題は同じです。(期限付き移籍で加入していた)一昨年は点こそ取ってはくれましたが、守備にかかわることはできなかった。彼も守備で最低限の仕事をした上で得点を取ってくれればと思います。ただ、一昨年ウチにいたことでその理解は早いとは思いますよ」

「闘っているな、走っているな」というチームを作ります!
――ここまで監督に話を伺うと「試合にかかわる」というキーワードが見えてきます。その言葉を実行に移すためにも、今季は「走ること」を全面に押し出していますね。「今シーズンは『運動量』で勝負していきたいと思っています。ウチはみんなでゲームにかかわるスタイルですし、やり方は新加入選手も含めほとんどの選手が理解していますので、そこでゲーム中に相手に対し優位性を保つためには運動量が必要。そこは徹底してやっていきます。
 もう1つはゲームの流れやリズムがいいときにこそ『チームのためにプレーする』作業をみんなで協力してやっていきたい。ウチの選手は『自分の持ち味を出せ』と言うと自分勝手にプレーしてしまう選手が多いですが、チームはもうその段階ではないし、次のステップに進んでいます。ウチの特長を消そうとする相手を観察しつつ、チームのためにプレーしながら、最後に自分の持ち味を活かす『大人のプレーヤー』になってもらいたいです」
――その壁を越えることが愛媛FCにとっても上にいける鍵ですね。
「逆にそこを超えられないと中位には登れないと思います。ウチに来る選手はこれまでは試合機会が少ない選手が多かったですから、まずは試合に出ることが目標になっていました。試合に出ている選手が今季は多いので、今季は『チームのために』を求めていきます。
 ですから今まではシーズン前もチームを作る作業を多く作っていましたが、今シーズンはチームを鍛えることを先にもっていきています。鍛えて強くして、戦っていきたい。キャンプも中盤までは走ることを重点に取り組んでいきます。逆にチーム作りは遅くなってしまいますが、今季はベースがありますから」
――今季はJ2も18チームになり、試合数も3クール51試合になります。それも鍛える要因になっているのでは?
「そうですね。さらに人数も少ない中で戦うためには一人ひとりが戦える選手にならなくてはいけません。日程も詰まっていますから『試合をしながらハードワークをしろ』といってもシーズン中は調整が多くなってしまう。となると鍛えるのは今しかない。闘えるチームにしてから一年を戦いたいです。
 J2での1年目も『まずは闘えるように』ということを考えながら過ごしてきましたが、今季は土台を作った上でそれに見合う戦えるチームにしていきたいです」
――最後に愛媛県民、サポーターに向けて決意のほどを「今シーズンは見ていて『闘っているな、走っているな』と感じて頂けるようにチームを作っていきたいと思います。ホームではみなさんが足を運んで頂くことで選手も力を出してくれると思いますし、サポーターとチームとが1つになって愛媛を盛り上げていきましょう!」

取材日 1月22日 インタビュー聞き手 寺下友徳
望月監督2

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